昭和の名作「東京物語」あなたは納得派?つまらん派?

こんにちは、皆さん!「東京物語」は、小津安二郎監督の代表作として知られる昭和の名作映画です。この作品は、小津作品ならではの独特な雰囲気と、人々の心情や家族の絆を丹念に描いたストーリーが特徴的です。
「東京物語」は国内外において高い評価を得ている一方で、一部の人から「つまらない」「退屈」という評価も存在しています。なぜこの作品は今尚多くの人に愛されているのか?一方でつまらないと感じる人の意見にも耳を傾けてみたいと思います。
私たちの日常生活そのものを映し出し、視聴者に共感を呼び起こす映画「東京物語」。私たちの感性に「東京物語」が問い掛けるものは何なのでしょうか、考えてみたいと思います。

目次

「東京物語」予備知識

「東京物語」は、1953年(昭和28年)に公開された、小津安二郎監督のモノクロ映画で、昭和28年度文化庁芸術祭参加作品です。主演は笠智衆・原節子。「晩春」や「秋刀魚の味」等と並び小津安二郎監督の代表作品です。世界中の映画祭や映画誌の企画で取り上げられ、ランクインでは常に上位に位置している作品です。

【スタッフ】
監督:小津安二郎
脚本:小津安二郎・野田高梧

【キャスト】
笠智 衆(平山周吉役:尾道に妻と次女と暮らす)・・・東山千栄子(周吉の妻とみ役)
原 節子(戦死した次男の妻・紀子役)
杉村春子(周吉の長女・金子志げ役・美容院経営)・・・中村伸郎(志げの夫役)
山村 聡(周吉の長男・幸一役・医院経営)・・・三宅邦子(幸一の妻文子役)
香川京子(周吉の次女・京子役・小学校教員)
東野英治郎・十朱久雄(周吉の旧友)
大坂志郎(周吉の三男・国鉄勤務)

★You Tube「東京物語」Pickup

★テレビドラマとして何度もリメイクされ、NHKを始め各局で放映、
舞台でも、山田洋次氏による脚本・演出で上演されました。

「東京物語」ざっくりあらすじ

尾道に暮らす周吉は、妻のとみと、小学校教師をしている次女の京子との三人暮らし。ある時夫妻は東京で暮らす子供たちを訪ねてみようと思い立ちました。

二人は当初開業医である長男幸一の家に滞在しますが、仕事に忙しい幸一はも、子供にかまける妻文子も東京見物どころではありません。

遠慮した二人は、その後、美容院を営む長女志げの家に移りますが、志げもその夫も忙しく、父母の世話に時間を割こうとはしません。二人はどこにも出かけられぬまま無為に時間を過ごすことに・・・

日々忙しい志げは、戦死した次男の妻の紀子に両親の世話を押し付けます。優しい紀子は仕事を休んで二人を東京見物に案内し、その晩は、紀子の一人暮らしの小さなアパートの一室でもてなします。二人は紀子の優しさに打たれます。

幸一と志げは、親孝行のつもりで両親を熱海旅行へと送り出します。しかし用意された旅館は夜遅くまで騒がしく安眠できる環境ではありませんでした。二人は予定を切り上げ戻るのですが、早々に戻ってきた両親に志げは不満そうな態度をとります。

二人は「とうとう宿なしになってしもうた」と考えあぐねた末、周吉は尾道で親しかった旧友を誘い飲みに、とみだけが紀子のアパートに泊めてもらうことなりました。紀子の優しさにとみは涙をこぼします。
一方周吉は酔いつぶれ、深夜に友と共に志げの家に帰り着き、二人とも美容室の椅子で眠り込んでしまうのでした。

上京したものの子供たちに煙たがられたことを嘆きながらも、それでも自分たちは幸せな方だと、しんみり語り合いながら、二人は帰路の途につきます。途中とみの具合が悪くなり、やっと尾道に帰宅した二人でしたが、とみの体調は急変、間もなく危篤に陥ります。

東京の子供たちが母のもとに駆けつけますが、とみは目を覚ますことなく急逝してしまいます。

葬儀が終わると子供達は早々に帰ってしまい、紀子だけが周吉を気遣うように残ります。 周吉は紀子の心遣いに感謝し、再婚して幸せになってほしいと伝えます。

翌朝、誰もいなくなった部屋で一人、周吉は静かな尾道の海を感慨深げに眺めるのでした。

「東京物語」の魅力と評価の斜め読み

「東京物語」は、東京で暮らす子供達を訪ねた老夫婦の姿を通し、戦後日本の家族の繋がりと、その喪失感を描いた名作映画です。高評価が占める一方、あまり面白くないと評価する向きもあります。頭をひねってみましょう。

◆距離があっても家族は家族

家族って頼りになる存在ですが、時にはうるさかったり面倒になったりすることもあります。
田舎から上京してきた両親に、忙しい中、対応する子供たちのふるまいを通して、親子の心情や人生の哀楽がよく伝わってきて、自分に置き換えてみることができる物語でした。

家族間の距離や家族の死、老後の孤独などは、いつの時代にもありえるテーマです。この映画では戦死した次男への思いが感じられ共感を覚えます。現在では天災に加え、交通事故のような人災も多発し、愛する人を亡くし悲しみを抱える家族も多いはずですから。

映画では、一見すると年老いた両親をなおざりにする子供たち、しかし、言葉やその行動の裏には、それなりに親を思う心がほのめかされます。葬儀の後、遺品の取り合いが始まったり、葬儀が済めばさっさと帰ってしまう身内がいる一方、残された家族を慰め寄り添う身内もいます。
すべてが人間の、家族の、複雑かつ繊細な心情の顕れであであると言えます。そこがこの淡白な物語が高評価を得ている凄いところなんだろうと思います。

◆原節子さんの美しさや役者陣の演技が素晴らしい

昭和を代表する名女優、原節子さんの美しさ、優しさに魅せられます。!
上京した義父母の次男は既に戦死し、嫁の紀子との縁は遠くなっているにもかかわらず、紀子は義父母に優しく接し、できうる限りもてなそうと努めます。
紀子は一人暮らし、それなりに苦労や複雑な心情もあろうと察するのですが、その明るい笑顔と義父母への思いやりには心打たれます。ましてや昭和の時代の女性の礼儀正しい言葉づかいや目上の人への気遣いが紀子の優しさを一層際立たせていますね。

もちろん、メインの俳優さんから脇役さんまでオールスターが勢ぞろいです。
平山周吉役の笠智衆さんは撮影当時49歳、にもかかわらず見事な老人役をこなしています。その後も様々な映画・テレビに出演されていますが、全然歳をとっていないようです。私の中では49歳の当時からずっと老齢だったかのような感覚です。物静かな演技らしくない演技が彼の実力の素晴らしさなのでしょう。

★もし紀子さんに家族がいたとしたら、義理の両親にどこまで親身になって尽くせたでしょうか? でも、彼女のように心優しい人が大勢いることを信じたいと思います。

◆無理に理解しなくても、感じるものがある

高評価にはいろいろ理由がつけられています。カメラを固定してローアングルから撮影する演出技法が多く用いられている、とか、構図に歪みが生じない50mmレンズが使用され肉眼での見え方に最も近い、などというものです。技術的なことはよく分かりませんが、一貫して落ち着いた雰囲気が醸し出されているのは確かです。

この映画ではセリフの他、背景音楽と気にもならない生活音で、終始物静かにストーリーが進行してゆきます。人物の入らない景色だけの映像、室内の空間、沈黙など、静的な画面が度々配置され私たちの普通の日常生活と全く変わらないものが映し出されているのです。

そうした平凡な暮らしの中にもささやかな喜怒哀楽の感情が常に存在しています。物語が面白いか、面白くないかにかかわらず、人間の本質がにじみ現され、気づかずとも潜在意識に何をか感じられるものがあるのではないでしょうか。

ラストシーンは、孤独な老人の心情を物語るように、尾道の夜明けが映し出されます。説明も言葉も一切無い静かな風情で物語は終わります。視聴者に物語のメッセージを汲み取ってくださいと言うように・・・

◆「東京物語はつまらない」という声も聞いてみました

「つまらない」と言う人の言い分も分かる気がします。

確かに冒険映画のようなハラハラ・ドキドキは無いし、ロマンチックなシーンも無い。家族の絆が試される波乱万丈な暮らしやホットな家族愛の感動があるわけではない。

若い頃、「東京物語」は古い映画だが名作とされていたので見始めたのですが、スローテンポですし、家族それぞれの喜怒哀楽はあれど大きな盛り上がりはない。淡々と日常の会話や出来事が綴られてゆくのです。
この先どうなるのかというシーン展開への期待感が持てないまま、ついに途中で見るのを止めてしまいました。

しかし、これは若さゆえのことだったかもしれません。歳を重ねた最近、再視聴してみると感じ方が全く違うのです。あの時「つまらない」と思っていた日常の映像に、今は共感を覚えるのです。
特にラストシーンでは人生の機微を切々と感じとることができます。

評価として「つまらない」「分からない」というコメントは、たぶんお若い方ではないでしょうか。長く人生経験を積まれた後に再視聴していただくと、また異なる感覚を受けることがあるかもしれません。

「東京物語」のレビューやコメントには軒並み好評価が並んでいます。著名人や有名誌の高評価に迎合している向きもありそうですが・・「良い映画」と評価するのは、人の振り見て我が身の鏡となせる謙虚な心をお持ちだからなのでしょう。

◆いっしよに小旅行気分!撮影・ロケ地

屋内シーンはほとんどが松竹大船撮影所で撮影されたようですが、ロケではあちこちの風景が見られます。
昭和時代の東海道線で列車の旅。東京では、はとバスの車窓から皇居付近や銀座方面の昭和の風景を、尾道では、海岸通りや住吉神社、浄土寺付近の風景を、そして熱海温泉では、当時の賑やかすぎる旅館の風景も描かれていました。
ストーリーを見ていると、ちょっとした旅行気分が伝わってきます。

浄土寺ロケでは、夜明け前から境内に大勢の見物客が押し寄せたと言います。映画人気が上り調子の当時、地元新聞でもロケが伝えられ、尾道の観光効果に寄与したようです。

★今で言う「聖地」の原点が、戦後の日本に既にあったのですね。

「東京物語」から汲み取る人生哲学・心の糧

戦後昭和の時代を描いた名作映画「東京物語」が今なお愛され続けているのはなぜでしょう。
映画の登場人物たちが抱える悩みや微妙な感情は、現在の私たちの日常生活に通じるものがあるからです。家庭や職場など様々な人間関係の中に生じる摩擦や葛藤に共感できるからです。

終戦後一気に伸び始めた経済成長に伴い、人々の物欲も高まっていきました。仕事が溢れ、働けば金になる、儲かれば豊かになる、大方がこのような考えで、自分のために家族のためにと懸命に働いたのです。

しかし、物質的な豊かさや成功は人生における大事な要素ですが、忙しい生活の中では家族との時間や会話がとかく見失われがちになります。こうしたコミュニケーション不足は、家族の間に隔たりや対立を生み、個々を孤立させてしまいます。

戦後、豊かさを追求した日本では、こうした暮らしが当たり前のように長い間続きました。結果、現代社会では核家族化が進み、親子関係が希薄になったと言わざるをえません。更にITが拍車をかけ、他者との人間関係までもが、広く浅く軽くなっているように思えます。

「東京物語」は、家族のあり方や価値観を見つめ直すきっかけと同時に、社会的な問題についても考えさせられるのです。昭和時代の暮らしを描きながら、現代社会にも通じる思いやりの心や心の交流の大切さが伝えられています。

私たちは、家族や親に対して誠実に向き合ってきたでしょうか?
この映画を通じて、私たちは自分自身や家族との関係を振り返る機会を得ることができ、家族や大切な人との時間を大切にすることが、幸福感や豊かさをもたらすことに気づかされます。

私の場合は親孝行と言えるものはほとんど無く、反対に親不孝ばかりに気がとがめます。
また、子供たちは親である自分に対してどうだったでしょうか?状況はまさに「東京物語」そのものです。

「東京物語」を通じて、自身の生き方・考え方、他者へどのように接してきたか振り返ってみてください。新たな気づきがあるかもしれません。

「東京物語」まとめ

はい、当時ではまだ遠かった、尾道-東京間の旅。尾道の風景や列車、東京の昭和レトロにも、振り返れば寂寞とした余韻が漂います。
物質的豊かさを求めて仕事優先、家族への心情も、戦前とは少し異なり、古き良き日本の伝統文化が時代と共に失われていく哀愁が感じられる物語でした。
高度経済成長が始まった頃の、戦後日本の風潮がよく見て取れましたね。

「東京物語」は、世の中の変化に伴う家族の絆という価値観が希薄になってきたことへの警鐘とも言える映画ではないでしょうか。一度は見ておきたい作品です。

自分自身の家族への振る舞いは? また家族が自分に対してどのように接しているか?
振り返ってみると、喜怒哀楽そのもの・・・「東京物語」は今も、今後も、私たちへ問いかけます。

★それでは、またお会いしましょう。Good Luck!

本ブログはSWELLを使用しています
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この記事を書いた人

居所地:日本の中央山岳地域で田舎暮らし
映画・TVドラマ大好き人間
古代ロマン・スピリチュアル小説ファン
Pen name:東岳院展大
Blog nickname:福徳星人

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